社会・経済の変化への対応を図ること、国民一般に分かりやすいものとすることといった目的から改正民法が可決成立し、2020年4月1日から施行されました。民法改正による住宅・建築実務への影響として主なものは、以下のとおりです。
⑴ 売買契約上の瑕疵が「契約不適合」に変わりました。
契約不適合責任が債務不履行責任の特則と位置付けられましたので、債務不履行責任一般のルールに従うことになりました。
⑵ 請負契約の現行634条、635条が削除され、売買契約の契約不適合責任(追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権)が準用されるようになりました(改正559条)。これにより建築工事の完成後の契約解除が可能となりました。
⑶ 契約不適合責任の期間制限について、契約不適合の事実を知った時から1年以内に一元化されました(改正637条、改正566条。ただし、売買の場合は引渡しを要する。)。また権利保全の方法についても、期間内に契約不適合の事実を通知すれば足り、損害賠償請求の意思表明や損害額算定根拠を示す必要はなくなりました。なお、権利の不適合と数量の不適合に関する買主の請求権につき期間制限が撤廃されました。
⑷ 消滅時効につき、権利行使可能時から10年、権利行使が可能と知った時から5年とされ(改正166条)、請負報酬債権の短期消滅時効3年の規定は削除されました。
⑸ 請負契約において途中で契約が終了した場合は、注文者に帰責事由がある場合を除いて、仕事の結果が可分であれば注文者の受ける利益の割合に応じて報酬精算すべき旨明文化されました(改正634条)。
⑹ 委任契約において途中で契約が終了した場合の報酬精算についても、履行割合型に加え(改正648条3項)、成果完成型が新設され(改正648条の2)、成果完成型につき改正634条が準用されることになりました。
⑺ 委任契約において、委任者の許諾がある場合ややむを得ない事由がある場合には復受任者を選任できる旨の規定が新設されました(改正民法644条の2)。ただし、建築士事務所の開設者については、建築士法24条の3の再委託の制限規定によって規律されます。
⑻ 法定利率が現行の年利5%から、年利3%とし、3年ごとに利率を見直すこととされました(改正404条)。将来利益の賠償に際して実務上認められていた中間利息控除の規定が新設され、中間利息の利率につき法定利率とされました(改正417条の2)。
⑼主債務が事業目的の貸金等債務の個人保証債務について経営者保証等の場合を除き公正証書による意思確認を要するものとされ(改正465条の6等)、極度額の定めのない個人根保証は無効とされる(改正465条の2)など、個人保証人の保護を厚くしました。
(※弊所弁護士田中康道が北海道住宅通信令和元年7月25日号に寄稿したコラムをアレンジしたものです。)
認知症などの影響で判断能力が低下してしまった場合、財産を管理することや自分の意向に沿った生活環境を整えることなど、老後を安心して送ることが難しく感じられるかもしれません。協力してくれる親族がいれば、生活が困ることはないかもしれませんが、親族で考え方に違いがある場合や親族自身も高齢である場合、遠方で関わることが出来ない場合などは、生活自体が維持できなくなるおそれがあります。このような不安がある場合、どのような仕組みがあるのでしょうか。
⑴ 成年後見等(後見・保佐・補助)
法律では、認知症などの精神の障害の結果、自分の行為の法的な意味を理解する能力(事理弁識能力)がないと判断される場合などに、本人や親族などが裁判所に申立てて、裁判所が後見人等を選任し、財産管理、身上監護について意思決定をサポートする、代わって行う仕組みを用意しています。この仕組みを用いますと、本人が結んだ一定の契約は取消可能となり、裁判所の監督下で、本人の財産を守ることが出来ます。また、本人がどうしても意思表示できない場合、本人の意向を考慮して、後見人等が代理し、契約を結びます。本人の生活を充実させるため、居住場所の検討や福祉サービスの導入も行います。もちろん、本人が意思表示可能ならば、その意思を実現すべくサポートすることとなります。
⑵ 任意後見
⑴の制度は、裁判所が後見人を選任しますので、誰になって欲しいか希望を言うことは出来ても、その人が裁判所に選任されるとは限りません。そこで、判断能力が不十分になったときに備えて、希望する人と契約を結び、依頼する範囲を決めておく仕組みがあります。この仕組みを用いますと、公正証書という書面で契約をする必要がありますが、判断能力が低下した際には、本人や頼まれた人などが裁判所に申立てて、監督人を選任してもらうことによって、契約の効力が発生します。以後は、契約で本人から頼まれた人が、頼まれた範囲で本人のサポートをすることが出来ます。この仕組みも、法定後見と同様、裁判所のチェックがあります。ただし、成年後見等のような取消権はありませんし、本人の判断能力を定期的に確認して気づくことも必要です。
⑶ 財産管理契約
⑴や⑵のように判断能力が低下する前でも、財産管理や身上監護を頼みたい場合、お願いしたいことを契約すれば同様のことが可能になります。代理権を与えれば,本人に代わって契約を結ぶことも出来ます。ただし、第三者が監督をする仕組みは保障されていません。
⑷ さいごに
⑴~⑶の制度とは別に、信託や保険の仕組みを使って、本人や残された家族の希望を実現する方法もあります。どの制度も長所と短所があり、どの制度を使えば良いかは、専門家と相談して見極めて、本人の生活にふさわしい方法を選びましょう。
(文章:弁護士新堂有亮)